方舟 〜虚数の海の片隅で~
どこにいるやも知れぬ、愛すべき旅人たちすべてに捧ぐ。
PortHill
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「わたくしの考察の出発点は以下のとおりである。家のすべての片隅、部屋のすべての角、我々が身をひそめ、からだをちぢめていたいとねがう一切の奥まった片隅の空間は、想像力にとっては一つの孤独であり、すなわち部屋の胚珠、家の胚珠である」
これはフランスの哲学者、ガストン・バシュラール(1884~1962)の晩年の大作「空間の詩学」の第6章、「片隅」の冒頭から引用した文章である。
僕の愛読書である本書の中で、彼は詩の世界に広がる内密の価値の現象学的研究において、「家」を「特権的存在」とし、「片隅」を前述のように、その「胚珠」、つまり、家の原点として捉えた。
その上でこう書いている。
「それは確実な場所、わたくしの不動にもっとも近い場所なのである」
そこで僕は、偉大な彼の着想にならって、この電流の波がさか巻く、「虚数の海」をたゆたう方舟を自分の「家」とし、自分が今、なにかものを書いているこの日記を「不動」たる「片隅」にしようと思う。
どれほど僕がこの方舟を進め、「家」がどれほど荒波にもまれたとしても、ここに書き記した僕の思索の痕跡、産声をあげるだろうアイデア、先人の書物や同志の言葉から受けた感銘の数々、素敵なコレクションのすべては、書き留めたここから動くことはないだろう。
とりとめのないものを、つれづれなるままに、つらつらと書き連ねることは、少なくとも僕にとっては果てしない癒しとなるのである。とはいえ、この広い「虚数の海」、ただ考え、想い、書くだけでは、早晩飽きが来てしまうことだろう。
そこで、この日記を同じく当てのない旅をする、愛する同志たちにも気前よく見せたいと思う。
少々照れくさいけれど、やはり僕も人間。多少不器用でも、他のだれかと時間を共にすることは必要不可欠なのだ。
生来おしゃべりな僕だから、これ以上長くなる前に挨拶をして、このとりとめのない序文を締め括ろうと思う。
それでは愛すべき同志の皆さま、『片隅で逢いましょう』
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